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教育の機会および結果の平等性 (Finnish Lessons紹介 第2回)

今回は、前回紹介した "Finnish Lessons" をベースに、フィンランドの教育の平等性について取り上げます。

私は、フィンランド北部のオウル大学に留学していました。オウルは、人口約14万人 (2011年) の地方都市で、留学に行く前は「どんな田舎の大学なんだろう」と思っていました。でも、実際に行ってみてそのイメージは大きく変わりました。確かに町も大学も規模は小さいけれども、「効率的に機能している」という印象を受けました。オウルは、情報科学技術を中心とする産業都市で、町の中心部や大学ではどこでも無料の公衆無線LANが利用できます。大学では、ほとんどの学生が流暢に英語を話し、優れた研究成果をあげています。フィンランド人の友人は、”All universities are high-quality in Finland. We are proud of that.” と言っていました。フィンランドの大学は、大学ごとに特色は異なるものの、どの大学も教育・研究ともに優れています。この点は、日本のような、主に偏差値を基にして大学をランク付けする国とは事情が異なります。

「すべての大学がハイクオリティ」というのは、大学に限った話ではありません。第二次世界大戦後、フィンランドは「初等教育から高等教育に至るまで、優れた教育をすべての国民に平等に提供する」という理念のもと、国内のどこで、どのような経済事情の家庭に生まれても、優れた教育を無償で受けられる社会を建設してきました。これは、1970年代に作り上げられた、9年間の義務教育 (peruskoulu) 制度により具現化されました。学校間の成績差も小さく、子を持つ親の多くは、一番近くの学校に子供を通わせれば社会で生きていくのに必要な能力が身に着けられると考えているようです。現在は、peruskouluから大学院まで、無償で教育を受けられます。”Finnish Lessons” の第1章「フィンランドの夢:教育機会を平等に提供する」では、この戦後フィンランドの教育改革の歴史が説明されています。

また、「落ちこぼれを作らない教育」というキャッチフレーズで日本にも紹介されているように、フィンランドは教育の機会だけではなく結果も平等にすることを目指しています。つまり、「できる子」と「できない子」という差を作るのではなく、「みんなできるようになる」ようにしています。教育結果の平等を実現するため、フィンランドでは、生徒が勉強についていけなかったり、集団生活で問題があったりするときにサポートする「特殊教育」に力を入れています。具体的には、通常のクラスとは別に少人数で補講を行ったり、生徒一人ひとりに合わせた学習計画を用意したりします。この場合、生徒の評価は、その生徒個人の学習計画に基づいて行われます。特殊教育を受けるのは何も例外的で恥ずかしいことではなく、2008-2009年度にはperuskouluの約3分の1の生徒がなんらかの特殊教育を受けています。特殊教育は、生徒が苦手意識を持つ前にできるだけ早期にサポートすることを意図しています。また、peruskouluの5年生まではA、B、Cというようなランク付け形式の成績評価を行いません。このように、フィンランドの初等教育は、生徒が学校で「失敗」することがないように制度設計されています (Finnish Lessons 第2章 機会だけでなく教育の結果も平等に、参照)。

私は、日本ではそれなりに名のある大学を卒業しており、自分は相対的に頭が良いと思っていました。ただ、フィンランドに行ってみると、周りの学生は、英語ができるのは当たり前として、他にも外国語ができるのは普通のことで、論理的思考力という点でも優れているように思いました。そのうえ、「みんなできる」ので、自分のことを他人と比較して頭が良いとも悪いとも思っていないように感じました。フィンランド留学を経験して、試験の点数や大学のランクといったものに振り回されて勉強をし、自分を評価してきたそれまでの自分が馬鹿らしくなりました。

【References】
Pasi Sahlberg (2011)『Finnish Lessons - What can the world learn from educational change in Finland?』Teachers College Press
Chapter 1 The Finnish Dream: Equal Educational Opportunities

Finnish Lessons 著者および目次紹介 (Finnish Lessons 紹介 第1回)

今回から数回にわたって、フィンランドの教育に関する英語で書かれた本を紹介します。

Pasi Sahlberg 著 2011年『Finnish Lessons - What can the world learn from educational change in Finland?』Teachers College Press

アマゾン等で購入できるので、ご関心のある方は是非手に取ってみてください。

目次については、厳密には著作権の問題に抵触する可能性がありますが、全訳させていただきました。それ以外については、私が重要だと考えたポイントを私自身の考えも交えながら私の言葉で紹介したいと考えています。


【著者について】
この本の第一の特徴は、著者がフィンランド人であることです。PISA などの国際的な学力到達度試験で上位をとって以来、フィンランドの教育は世界から注目を集めるようになりました。日本でもフィンランドの教育に関する本が多数出版されています。ただ、フィンランド人自身がフィンランドの教育を世界に向けて紹介した本は他に例が見当たらず、おそらく本書が初めてなのではないでしょうか。

さらに、著者のPasi Sahlbergは、フィンランドの教育を内部から見る視点と外部から見る視点を両方備えています。Pasiは、両親ともに教師の家庭に生まれ、フィンランドの教育を受け、自らも教師としての道を進みました。その後、OECD、世界銀行、ECという国際的な機関で主に教育専門家としての職務を経験しました。この経験から、Pasiは国際的な観点からフィンランドの教育の特徴について理解を深められたと言います。この内部者であると同時に外部者でもあるという著者の立場は、本書の分析を優れたものにしています。

【目次】
 はじめに:互いに学び合えば教育改革は実現できる
 北方からのメッセージ
 例としてのフィンランド
 互いに学び合う
 本書の構成

第1章 フィンランドの夢:教育機会を平等に提供する
 戦後フィンランド
 全国共通の基礎教育へ向けて
 新たな学校の誕生
 中等教育の拡大
 教育達成度の向上
 教育改革の時代区分
 2011年におけるフィンランドの教育システム

第2章 フィンランドのパラドックス:減らした方がうまくいく
 辺境の国から注目の的に
 教育達成度のレベル
 機会だけでなく教育の結果も平等に
 生徒の学習到達度
 教育のコスト
 教育におけるフィンランドのパラドックス

第3章 フィンランドの強み:教師の質
 教えることの文化
 教師になるということ
 学問的な基盤を持った教師育成
 研究能力を持った教師
 専門性の発展
 教育手法を見直すための時間的余裕
 教育を先導するのは教師
 優れた教師が素晴らしい学校をつくる

第4章 フィンランドの道:競争力のある福祉国家
 グローバル化の影響
 世界規模の教育改革の動向
 知識基盤型の経済
 福祉、平等性、および競争力
 フィンランドの2つの象徴:ノキアと基礎学校
 課題に直面するフィンランドの夢

第5章 フィンランドの未来
 世界の主流とは異なる方法でつかんだ成功
 教育改革の成功
 教育改革のノウハウを他国へどう伝えるか
 フィンランドの教育の未来

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